麓井酒造株式会社

麓井酒造株式会社 麓井酒造株式会社

きもと造り
鳥海山麓の美酒

きもとづくり

きもとのお酒『麓井』のお話

1.三段仕込み

きもとのお話をする前に、日本酒の伝統的かつ標準的な仕込方法である『三段仕込み』をご理解いただく必要があります。

仕込みの大きさに問わず最初から米・米麹・水を投入しても、アルコール発酵に必要な酵母菌が増殖する前に雑菌に侵されせっかく仕込んだ材料が腐敗するリスクが高くなります。

そのため、

  • ①まずは比較的小さなタンクで酵母菌を純粋且つ大量に増殖させ「酒母」を製造します。
  • ②より大きなタンクに「酒母」を移し、材料(米・米麹・水)を注ぎ足す。

という手順を踏むことで、大きいタンクでも確実に酵母が増殖してアルコール発酵が行われるという技術が生まれました。

時代とともに試行錯誤が行われ、日本酒の場合は

  • ①酒母
  • ②初添(はつぞえ)
  • ③仲添(なかぞえ)
  • ④留添(とめぞえ)

の4段階に分けて仕込を行う方法が標準化しました。この方法を『三段仕込み』と呼びます。列記すると『四段仕込み』な気もしますが、酒母の工程を含めずもろみの仕込だけをピックアップして『三段仕込み』と呼ぶことが慣例となっています。その辺の経緯をご存じの方はどうかお知らせください。

2.「生酉元」と書いて「きもと」と呼ぶ。

このHPではきもと仕込みを平仮名で表記しています。その理由はふたつあります。

一つは「生酉元」の「酉元」という文字がHP上では特定のフォントでしか表示できないこと、もう一つは「なまもと」と読まれる方が案外多いので、とにかく「きもと」という言葉を音として覚えてほしかったという理由です。


「生酉元」と書いてあったら是非「きもと」と読んで下さい。

3.酉元=もと=酒母

前述のように日本酒の仕込の前段で「酒母」というものを造ります。酒母とは

  • ①比較的小さなタンクに米麹・蒸米・水を仕込む。概ね1:2:3の割合です。
  • ②仕込んだタンク内が「乳酸酸性」になるよう誘導する。
  • ③タンク内で酵母が増殖する

という手順を踏む工程です。

この酒母という工程の古い呼び名が「酉元(もと)」です。ですから「きもと」とか「山廃もと」というのは酒母の種類を指しています。


ちなみに酒母の種類はおおまかに「きもと系」と「速醸系」に分かれます。ですから「きもと仕込み」とは「きもと酒母で仕込まれた」という意味になります。

おおまかに言えばきもと系は乳酸菌に乳酸を産出させてタンク内を乳酸酸性に導きその後に酵母を添加(古来であれば酵母は空気中あるいは人手、道具などから自然に混入)する方法、速醸系は酵母と純粋乳酸を仕込みの際に原料と同時に添加する方法です。


さらに現在の技術をもってすれば酵母を純粋に大量培養でき、さらに乾燥保管することもできます(いわゆるドライイースト)。

ですから今日では酒母の工程自体を省いて最初からもろみを仕込む方法も確立されています。大手さんは主力商品ではこの方法を採用することが多いですが、当社のような中小規模の蔵や大手さんでも少量生産の大吟醸酒などでは三段仕込みが現在でも主流です。


ちなみにきもと仕込みで生産されている日本酒は正確な数字は持ち合わせていませんが全体の5%にも満たない(おそらく山廃込みのきもと系合計でも10%未満)と思われます。

4.もうちょっと深掘り

きもと酒母のタンクの中では

  • (1)硝酸還元菌
  • (2)乳酸菌
  • (3)酵母菌

の順に主役が交代していきます。


まず、主に仕込水等に由来する硝酸還元菌によって酒母の中の亜硝酸濃度が上昇します。この亜硝酸は酵母菌を殺す力が強いため、酒造りに向かない野生酵母を駆逐するのに役立ちます。

その後亜硝酸環境下でも増殖できる乳酸菌が硝酸還元菌を駆逐しタンク内の天下をとります。これに伴いタンク内の乳酸濃度が増えるとともに亜硝酸濃度が徐々に下がっていきます。


天下を取ったかに見えた乳酸菌も、自分が出した乳酸によって消失していきます。そしてタンク内はごく短期間ですがまったくの無菌状態になります。このタンク内には空気中から多くの菌が侵入しようと試みますが、低温で蒸米が麹の酵素で溶解され濃糖になり、さらに乳酸酸性でかつ亜硝酸が残る環境にはなかなかうまく侵入できません。

その後亜硝酸が消えると、乳酸酸性の中でも生きていける酵母菌が侵入(当社の場合は酒造用酵母を添加)します。

こうした段階を経ることで、酒造りに向かない野生酵母等をシャットアウトし、ほぼ100%必要な酵母だけを得ることができるのです。


さらに、きもと酒母は酵母の増殖が一段落した後、酒母全体を何日もかけて冷却する「枯らし」という工程を踏みます。その過程で酒母タンク内のアルコール分も上昇し高いものでは14%台にもなります。この工程で高アルコール環境や低温に耐えられない弱い酵母を淘汰し、頑強な酵母だけをもろみに引き渡すことで、もろみの発酵が終盤で弱ってしまうリスクを減らします。こうして得られた純粋で頑強な酵母によって、使用した酵母ならではの特徴を存分に発揮した酒質が得られ、また発酵が途中で弱まることなく思い通りの酒質にもろみを導くことができます。

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